女性が絵のある部屋で一心不乱に手紙を書いている。物音でもしたのだろう。ふと書く手を休め、こちらを振り向く。嬉しそうな目つきだ。だが、眼(まなこ)の奥底から発せられたその視線には、たちまち不吉な憂いの色が浮かんだ。どうやら顔を向けていても、こちらは上の空のようだ。瞳の焦点が合っていない。
唇にはいつも通り挨拶の笑みをたたえている。だがそれとても、一瞬の後には凝結してぎごちなくなる。手紙の相手とのあいだで、いまひとつ腑に落ちないところがあるのだろう。それを手繰り寄せながら追っていくと、いつしかハッとするシーンに行き当たる。
髪にはサテンのリボンを結び、大粒真珠のイヤリングをつけ、アーミン毛皮で縁取りされた黄色いコートに身をつつんでいるというのに、彼女の不安は止めようがない。それにしても美しい女性の心が、これほどまで自然に、的確に捉えられたことが、かつて一度でもあったろうか。(Bunkamura ザ・ミュージアム、〜H24年3月14日) |
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「手紙を書く女」1665年頃、ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵
(c)National Gallery of Art, Washington, Gioft of Harry Waldon Havemeyer and Horace Havemeyer Jr.,in memory of their father, Horace Havemeyer. |
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