「バターミア湖、クロマックウォーターの一部、
カンバーランド、にわか雨」
1798年、
カンヴァス・油彩、88.9×119.4cm
N00460, Accepted by the nation as part of the Turner Bequest 1856, B&J 7
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水のある風景をこよなく愛したウィリアム・ターナー。そんな彼が、イングランドでもっとも美しいと誉れ高い湖水地方の景観を、ただ黙って放っておくわけがない。
カンブリア山地から流れ出た氷河によって刻まれた放射状の谷には、決まって澄んだ水をたたえる湖があった。サルメア湖、ダーウェント湖の西に位置するバターミア湖の東端フリートウィズ・パイクからながめると、高原の険しい山々に挟まれるようにして、遠くクラモック湖のあたりまで見渡せる。
折しも水蒸気をたっぷりと含んだ黒雲に遮られて太陽は顔を隠す。と次の瞬間、奇跡はおこる。まるで夜のような暗闇となった天空に、突如巨大な虹が現れたではないか。真白に光り輝く半円は、湖に映りこんで正円へと完結していく。こうして伝説の「夜の虹」は、歴史上ただ一度だけ描きとられたのだ。しかも、他のいかなる方法によっても及ばないほど正確無比に。
この作品は23歳の青年画家が、水のある風景へといかなる気迫で挑んでいったかを示す記念碑といっても過言ではないだろう。(東京都美術館、〜H25年12月18日)
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