「叫ぶ教皇のための習作」1952年
Yale Center for British Art |
1909年アイルランドのダブリンに生まれた同性愛者、フランシス・ベーコン。彼は電話番からインテリア・家具デザイナーまでさまざまな仕事を転々とし、最後には画業へとたどりつく。だがその作品は、ほかの誰とも似ていない。まったくベーコン独自の、独り懸け離れたものであった。
たとえばある男の胸像が描かれる(写真)。口を大きく開け、白い歯をみせて何ごとか叫んでいる。初老の紳士には似つかわしくない、烈しい憎悪ないし恐怖に満ちた怒りの表情だ。縁なしメガネは毀れ、いましも顔から吹き飛ばされんばかりである。そして男はローマ教皇その人という。だが、ここにカトリック的意味合いは「まったくない」らしい。
そうなるとわれわれに残された手掛かりは、セルゲイ・エイゼンシュティンの映画「戦艦ポチョムキン」に出てくる母親の泣き顔だけだ。オデッサの階段で口を開け、メガネを鼻からずり落ちさせている。だがこれとて作者が少し前に、この映画を観ていたという状況証拠があるだけだ。
こうしてフランシス・ベーコンは、絵画(現代美術)が少しずつ難解な方へと向かう時代の、最後にして最大の人物となったのである。(東京国立近代美術館、〜H25年5月26日)
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