私の出会った砂
砂はなかなか興味深い物質だ。岩石が砕け、石と土の中間のものだけが風によってふるい分けられて集合体になり、これが生き物のように地球上を這いずり回り移動し続けている。時には静かに時には激しいこの運動を続けながら、ほとんど生物を拒絶する。しかも、砂自体は無機的な物質でありながらもこのように自立して、運動することによって、止むことなく形象をかたちづくるのだ。
ところで私がこのような砂に向かう時、私の内部に閉じ込められてそれまで認識できなかった混沌とした諸々の欲求らしきものが、どうしようもなく噴出してくる。そして私は、この混沌とした欲求らしきものに形を与える必要が出てくるのだ。砂がそうであるように、形として提示しない限り私自身の存在を見失ってしまうから。
アトリエにて
面相筆で一本一本、風紋を描いていく………。細い筆と太い筆を交互に変えて、一粒ずつ砂粒を描いていく………。ただひたすら描き続ける。
上気して夢中で描いているのでなく、ただ機械的に手だけを動かしているのでもなく、はっと気がつくと、くたくたになっている自分と、私自身が描いたはずのたくさんの風紋と砂粒を見つけ、まるで時空に迷い込んでいたような時間が過ぎていた事を知る。そしてまた、ひたすら描き続ける。
このような時間こそ、砂が世の中の全ての音と時間でさえも吸込んでしまっている、あの砂丘で見つけた「透明な」瞬間ではないだろうか。
鳥取県砂丘情報館・ギャラリー流音砂(ルネッサ)
松尾多英 履歴(2011年現在)
1947年 生まれる
1970年 Ecole des Beaux arts修了(フランス・パリ)
1973年 油絵で作品発表開始、テーマ「人物」
1982年 砂との出会い。日本画で作品発表開始、テーマ「砂」
東京造形大学教授
主に個展で「砂」をテーマに発表
個展
1973年〜現在まで 発表28回
日本画廊、紀伊國屋画廊、夢土画廊、地球堂ギャラリー、青羅ギャラリー、藤沢市民会館、京都リサーチパーク、小野画廊、静岡カントリー浜岡コース、八王子市芸術文化会館、鳥取県風紋ギャラリー、鳥取県砂丘情報館「サンドパルとっとり」(常設展)