「飛翔U 時空を超えて」2000年、
Stainless Steel、6×3.5×3m |
渡米前の数年間、野田正明は何かに憑かれたようにシルクスクリーンの版画に没頭している。すさまじく完成度の高いハードエッジ(色面構成作品)だ。モダンアート展では大阪市長賞に輝き、同会を代表する新鋭作家のひとりともなっている。「アートの中心地ニューヨークで、このシルクの技を究極まで磨いてみたい」と、 27歳の青年が大望を抱いたとしても決して不思議ではあるまい。実際この胸を熱くする夢は、1977年9月に実行へと移された。
だがソーホーに居を定め、アート・スチューデンツ・リーグに通いはじめると、色遣いはかえって静寂になっていく。刷りは毎度100回を越すというのに、作品の印象はどこか淡くやさしいのだ。折からポスト・モダニズムの奔流に晒され、「抽象と具象の境界はどこにあるのだろう」といった、表現の根底を揺さぶられる日々がつづいた。
野田は「ニューヨークにいると、固定観念が目の前でどんどん壊されていく経験をする。いまでは、何事に対しても固定観念をもたないのが当たり前になってしまった」と笑う。作品のイメージは相変わらずふつふつと湧いてくるが、それをシルクスクリーンだけで掬いとることに、いつしか困難を感じるようになっていた。
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