本展は白石恭男・新理事長を中心とした執行部にとっては、船出ともいうべき初めての板院展である。それを祝すかのように審査会の作業は何の支障もなく順調に進み、すべての受賞者と委員・同人・院友推挙の人々は結束を確かめ、例年にも増して大きな喜びに沸いたのである。
集まった作品はそれぞれ、相変わらず元気というような言い方では収まらない大いなる前進をみせていた。ごく大まかにいえば、木版画の特色を最大限に呼びこんで新しい版画世界を切り拓こうとする河内ゆう子、若林幸枝、今一郎、永岡好雄などのベテラン作家たちは、鬼塚満壽彦、田中洋子ほかの木口木版の細密描写とともに、引きつづき大胆な画面づくりを心掛けた墨一色の世界を志していたように思う。
色絵の場合には逆に、自然の幽玄な奥深さを色彩の細やかな諧調によって再現するため藤谷芳雄、萩原眞樹、齋藤靖子、小原榮のように気の遠くなるような丹念さをもって色版を重ねていく作品が主流だったのではないだろうか。
一方それを追いかける世代の作家たちは、墨ではあってもモノクロ写真を思わせる精密さを摺り出したり、色絵では櫻井阿佐子、臼田ひとみ、登坂賢二郎のように、もはや外界の忠実な再現をもとめてはいないようにも思えてくる。つまり木版画というシステムだからこそ可能な表現でもって、自らの思いを油絵や日本画よりもう一段高いところから視覚化する道を、ひた走っていくように思われるのだ。
こうしたベクトルの衝突、ないしはすれ違いにこそ、実は本当の意味でのアートの革新が潜んでいるのではなかろうか。そしてそのことを最前線で実感させてくれるところこそ、審査会場という名の「美の戦場」なのだろうと思う。こうした場に若い世代のアーチストたちが一日も早く参戦し、ひとりでも多くチャレンジしてくれることを、心より願わずにはいられない。
by JAO
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