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都政新報 2009年12月1日掲載

新 アートの時代へM

●「アネット・メッサジェ」展(2008年8〜11月)
 流用は一切利きません


 「美術展はどのみち儲からない」といわれる。だが、はたしてそうだろうか。実はよく調べてみると、しっかり収益を上げている展覧会もあるのだ。美術展がすべて儲からないのではなく、どうやらそれを行う美術館というシステムのあり方に問題がありそうだ。
 2008年8月、東京・六本木の森美術館では「アネット・メッサジェ−聖と俗の使者たち−」展が開かれた。フランスを代表する女流作家アネット・メッサジェの、日本ではほとんど初めての本格的な展示である。単に海外展というだけでなく、パリのポンピドゥーセンター、フィンランド、韓国を巡回してきた国際巡回型の大規模な催しだ。美術館同士の打ち合わせや会場視察には、いろいろな国へ何回も足を運ばなければならない。その分国際交流の実は上がるが、渡航費用もバカにならない。
 カタログは英語と自国語のバイリンガルに限定しても、制作現場では五カ国語が飛び交う修羅場となる。翻訳の費用と労力は大変なものだ。展示については、会場ごとに「容器」が異なるので、作家自らが指揮することとなる。アネット・メッサジェの場合、日常のさまざまな場面から拾いあつめてきた写真、記事、言葉、剥製、縫いぐるみ、布、刺繍、編み物などのオブジェ類が素材となる。
 それらを額縁に入れて壁にかける。あるいは裸のまま壁に貼りつける。そして最後には黒糸や赤糸で天井から吊るすのだ。吊るされた瞬間、縫いぐるみには不思議な生気が吹きこまれる。誰も聞いたことがない、身の毛もよだつ恐ろしい物語がひっそりと語り出されたりする。オブジェが何百何千となると小さな囁き声は、耳を聾せんばかりの大音響となる。この壮絶な展示にかかる手間暇は、考えただけで頭が痛い。
 だが「美術展が儲からない」のは、こうした特殊事情のせいだけではない。美術館では通常年に5-6本の企画展を行うが、その中身は企画展毎にまったくちがっている。実例として、前述の森美術館の展覧会ラインナップをみてみよう。
 2-4月は「アートは心のためにある:UBSアートコレクションより」で、スイスに拠点を置く金融機関UBSの現代美術コレクションを紹介する。4-7月は「英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展」。イギリスの国民的行事となっているターナー賞の歴代受賞者すべてを一堂に展観する。8-11月はフランスの「アネット・メッサジェ展」で、11-3月は「チャロー!インディア:インド美術の新時代」。インドの各地で活躍する27組のアーティストが登場してくる作品展だ。
 そしてこの間に「森美術館コレクション展」やオランダ人作家を紹介する「MAM PROJECT 007:サスキア・オルドウォーバース」、「IN-BETWEEN:アジア・ビデオアート・ウィークエンド」、「MAM PROJECT 008:荒木珠美」などが適宜挿入されるという。
 国籍も展示物も見事にバラバラだ。そうすると作品の制作は当然として、展示、運搬、カタログ、広報宣伝活動に流用は一切利かない。いつ、どこで、誰と何をやるのかよく分からないまま走るというのが現実だろう。学芸員の側からすると、展覧会毎にこつこつと知識を積み上げなくてはならない。しかもようやく調子がつかめて、いざ観客動員という段階になって大抵の展覧会は終了してしまう。贅沢というか非効率はなはだしい。市民に情報が行き渡ったころ、展覧会はもう終わっていたりするのだ。
 美術館は経済原則にのらないばかりか、しばしば儲けパターンの真っ逆さまをやっていく。それでも潰れないのは、ひとえにスポンサーのお陰だ。国や大企業にしっかりと支えられた美術館でなければ、中味の濃い事業展開が実現できないのは理の当然だ。この点で巨大企業森コンツェルンに支えられた「アネット・メッサジェ」展は、大きな経費負担(すなわちハイリスク・ハイリターン)をものともしない私立美術館の特質を、見事に浮かび上がらせる好企画であった。

 

 


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